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Angenieux S1 - 幻想と共に

P.Angenieux S1はAngenieuxが開発していたダブルガウス型のレンズで、入手難易度が極めて高い。複数のマウントが存在し、そのなかでもL39,Gamma3 Gold,M42,CONTAX,旧ALPA(S1 Alitarではなく、Alitar銘)の入手難易度が頭抜けて高い。Angenieuxは1935年創業のフランス サンハンドレットに拠点を構えるシネレンズメーカーであり、レンズの供給は諸説あるが1936年から開始されている。(1935年説もある)

 

Ernst Leitz Gmbh. Wetzlarのボディやレンズに刻まれている「Ernst Leitz Wetzlar」のように、Angenieuxの極一部のレンズには「St-HEAND」と刻印があり、まさにAngenieuxファン垂涎だ。(Type,65,75,86に刻印確認済み、最も古いシリアルナンバーで1941年からの製造が確認されている)

 


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私の個体は旧ALPA用に供給されていた後期型(コーティング済みのモデル)で、L39に改造されている。Angenieux S1 AlitarはALPA REFLEX用のヘリコイドアダプターから回すだけで着脱可能なため、Summitarのヘリコイド部に捩じ込むだけでLTM化ができる。写真は注釈がない限りSIGMA fp Lで撮影。

 


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オブジェクトの立体感が自然に出ている。また、布の質感も繊細というよりかは、どこか美しく見える。

 


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全体的に滲みレンズ。しかし質感は特有のように感じる。


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電球の発光がじんわりと、オーバーにならず、妖艶で惹き込まれてしまう。

 


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提灯はやはり合うような気がする。妖しさと誘いを感じ、Som Berthiotのレンズとは違った深い味わいが漂う。工業大国のドイツ製レンズとは異なり、フランス製のレンズには妖艶な雰囲気をまとい、芸術大国の土地に宿りし人々の繁栄が入り込んでくるのは、まさに「感性の工学」といったところだろうか。

 


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Leica M9-Pで撮影。最新の6000万画素CMOSフルサイズセンサーと比較すると、1800万画素のCCDフルサイズセンサーは性能不足感が否めない。よく言えば「フィルムライクな写真」だろうか。レンズ性能の重要さがよくわかる1枚だった。

 


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Leica M-P Typ240で撮影。CMOSセンサーになった途端、M9-Pの描写が嘘だったかのように綺麗な写りになる。

 


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Leica M-P Typ240。恐れを感じるような立体感に鳥肌が立つ。

 


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Leica M-P Typ240。開放時の遠景は強い滲みが目立つ。基本的に光学性能は新しい方が高いので、古いレンズの低い光学性能を最新のセンサーで補うとバランスが取れる気がする。

 


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SIGMA fp L

 

ところで、Angenieuxのスチル用レンズはスイスのピニオン社が開発したALPA REFLEXの前身にあたるBolca Iに初供給されていたらしい。ALPAといえばAngenieuxだけでなく、Kilfitt,Old delft,Kern Aarauのレンズをあえて採用していた事実を考慮するに、やはりLeitzやCarl Zeissの描写とは一線を画した官能的な写りをブランディング化したかったようにも感じる。列挙したレンズメーカーはいずれもLeitz,Carl Zeissの写りとは異なり、白の発色が柔らかい傾向とあり、知る人ぞ知る美しさといった印象商法を狙っていたのかもしれない。なお、スチル用レンズの初供給については、諸説あるが、1939年製のRichard VerascopeにX1 40mmが供給されていたらしく、Bolca I用に初供給されていたかどうか明確な根拠は確認できていない。

 

ちなみに、ALPA Alnea用に供給されていたフラグシップレンズのKern Aarau Macro SwitarもAngenieuxの描写と若干傾向が似ている。そのレンズが吸収した光は世界を色彩美で満たし、その色から写し出されるスイスの雄大な自然を彷彿とさせる様は地球のエネルギーがガラスに宿っていると言っても過言ではない。そしてS1とMacro SwitarはF値が1.8と共通している。なぜフラグシップレンズのF値を1.4や1.5にしなかったのか?Angenieuxは後にS21 50/1.5、S5/1.5というレンズを開発しているが、Sシリーズの掉尾を飾るS6ではF1.8に戻している。また、Macro Switarも後期型ではF1.9に変更され、これは「光学性能に影響を及ぼさない設計」がF1.8やF1.9だったことを示唆しているのではないか。中途半端な数値に思われるかもしれないが、美しさと光学性能の中庸を保つ美学がF1.8やF1.9なのではないか?Angenieux S1とS21を比較しても、無理のない描写は明らかにS1であり、F2の数値は理想形に近いのではないだろうか?

 

Angenieux S1 50/1.8は扱いやすく、幻想を見せる。当時のフランス人は幻想を見出したかったのだろうか。常用レンズとはかけ離れているが、銘玉に間違いないだろう。